自ら心を清らかに | 世界遺産 真言宗御室派総本山 仁和寺
今月の法話
今月の法話
23/12/01

自ら心を清らかに

12月に入りますと、誰しもが心忙しい思いに駆「か」られます。過ぎ師一年の総決算が一段と重みを加える時でもあります。

さて、12月の花暦と言うと、水仙があげられます。楚々「そそ」とした姿かたち、上品な薫り、私も水仙は好きなお花の一つです。水仙は自尊の姿をしています。ジソンとは文字の如く自ら尊しと書きます。天上天下唯我独尊と仰せられたお釈迦さまの心に通うものです。

これは決して相手を見下げる意味ではなく、自分の本来の価値にめざめ誇りを持ち、卑屈な心など捨て去ってしまうことです。青天白日「せいてんはくじつ」心に曇りがなく、とにかく前進する信念ともいえましょう。

また、自尊の外に、清楚「せいそ」飾り気のない清らから心の意味もあり、きれいでさっぱりとしていることです。

しわだらけになったズボンにアイロンをあてた後のようなもの。ほこりだらけの頭髪をシャワーで流したようなもの。小ざっぱりしていることは、相手にも好感を与えます。

お釈迦さまのお言葉に「自淨其意」(じじょうそい)が当たります。「自ら心を清らかにせよ」との言葉は、昨今の世の中の有様を見るにつけ思い当たることは少なくありません。

あるお年寄り六人が共同で暮らす、グループハウスがありました。

しかし、そんな場所でも、ささいなことでもめごとがおこるそうです。例えば食事の時に席をかえてとか、お風呂の順番を先にしてとか、あの人の掃除の仕方は下手だ等と細かなことが共同で暮らすうちにいろいろ出てくるんです。

そうしたもめごとを、月二回開く会合で話し合い、解決していくそうですが、実は問題にきりはないんです。ある時、口ケンカが始まり、なかなか終わらない時、そこに住む中で最高齢の九十才のお婆さんが「いい年して、ひがんだり、焼きもちやくのはやめよう」と言ったら、皆シーンとなったそうです。

誰もがこのグループハウスを・(終の住処)「ついのすみか」・にしようと思っているから、それ以上言ってはいけない点をわきまえているというのです。

また、ある老人ホームにいる百才のお婆さんは、いつも「おかげさま」という言葉が自然に出でくるそうです。

「私が歩いていると、犬まで道を譲ってくれます」と言って笑われています。また十年以上の老人ホーム生活の中で、一度もトラブルがないそうです。

例えばクーラーや暖房は、いれる季節になると、涼しすぎるとか暑すぎるという各人各様が出ますが、この方は「同室の人に合わせています。涼しかったら上着を一枚増やせばいいし、暑かったら薄着をすればすむことです」と言って、一度も苦情を言ったことがないそうです。「年はとっていますが、今の若い人と違って、何事にも辛抱出来ます」とも言われ、お年寄りのお手本みたいですねと言われると、「これは年をとった者のつとめであると思います。そうでないと、年をとった者の値打ちがないでしょ」と答えられました。

私たちは間違いなく年をとっていきます。ならばこれらの方々のように周りを思いやる心の柔らかさをもち、年をとっただけの値打ちがあるような辰年にしたいものです。

すす払いも大事ですが、心のすす払い、小ざっぱりして新しい年をお迎え下さい。

世界の平和を仁和寺よりご祈念申し上げています~ではまた・・・