生きる心のより所 | 世界遺産 真言宗御室派総本山 仁和寺
今月の法話
今月の法話
25/05/01

生きる心のより所

外国の方が、「日本人は、お金はあるが個性がない」、とよく聞きます・・・・

花は天に向かって咲き、星は地に向かって光る、人は何に向かって、生きるべきなのか・・・

人間は常に自分を忘れず、楽を求めず、苦しみに立ち向かう、人であってこそ人生の花が咲くのではないか~此の世を古来より、娑婆と呼んでいます。

仏教では、忍土、忍界と呼び、苦しみに堪え辛抱するところに、真の人生があると説いています。人生とは、投げとばされ、突き倒され、多くの苦しい経験を積み重ねることによって、育つものでありましょう。

昔むかし、丹波の国に三人の仲のよい兄弟が暮らしていました。ある日兄弟は、都へ出て大いに活躍しようと、峠を越え、田んぼの道を行くと道が三筋に分かれていました。

相談の結果、兄は右へ、二男は真ん中、三男は左へ行くことになりました。十年くらいたったある日、加茂の長者金持ちの屋敷へ、大盗賊が押し入りました。盗賊は都を守る警察によって、すぐ捕らえられました。

顔を合わせた三人が「アッ」と息をのみ目を丸くして・・・おどろきました。大盗賊は二男で、捕らえた警察は長男、金持ちの長者は三男でした。兄弟の人生街道に、何があったのでしょうか・・・

そこには、いろいろな人との出会い、様ざまな縁や、また出来事があったのは当然だったでしょう。

しかし、人として生きるための、心のよりどころを誤り、自分を見失ってしまったようです。

〽「おのれこそおのれのよるべ、おのれを措きて、誰れによるべきぞ、よく調えし、おのれにこそ、まことえがたき、よるべをぞえん」〽と、お釈迦さま諭されました。

この言葉の通り~自分を調え、自分の体と心を含め光とし、自分の生きる心のよりどころを、しっかり持つことが大切ではないでしょうか・・・

特に、近年の社会情勢を角度をかえて眺めて見れに~ストレスの時代と言われるくらい慌ただしい心にゆとりのない時代なのかも知れません~例えば男性に多いのが、会社の新しい機械についていけずに悩む「テクノ症候群」、上司と部下にはさまれる「サンドイッチ症候群」・・・

女性に多いのが、自分の人生を子供や夫につくすことに一生懸命だったのに、子供はいつの間にか成長独立し、夫は会社人間で、気が付くと自分の巣がからっぽであることにショックを受ける。

空「から」の巣「す」と書いて「空巣症候群」等、数え上げればきりがない位です。

一体どうしてこういうことになるかというと、いろいろな原因はあるでしょうが~結局「生き方の指針がないから・・・」だと、京都は高雄病院長の中村仁一先生はおっしゃられました。

そして、その生き方の指針こそ、信仰でなくてはならないと続けられます。

まさに信仰とは、生き方なのではないでしょうか~私たちが「生き方がある」ということは、「生きていく方向がある」・・・つまり、行き先がはっきりしているということです。

自分が旅行する時は勿論、他人がお使いに行くのにさえ、「どこかへお出かけですか?」と行き先が気になるのに、肝心の自分が生きて行く方向を知らずに・・・いや、苦にさえならずにいる。

考えてみると、恐ろしいことです・・・だから、生活に統一がなく、刹那的でバラバラであり、そこにストレスが生み出される要因があるのではないでしょうか。

「生き方」を見つけるということは、一朝一夕に出来るものではありません。でも、その心を起こさなかったら、いつまでたっても出来ません。お互いに自分の生きてきた道を反省しつつ、究極の「生きていく道」を見つけていきたいものです。

目をとじて~心静かに座り呼吸を整え、「ありがとう・・・」の言葉を添えて見て下さい・・・何か聞こえて来るかも知れません。

 ではまた~合掌